教育研修基礎理論−分類整理 畑 彩土
Social Learning Theory
−バンデュラ 1977年−
観察学習
模倣学習では、「模倣者が、リーダーと同じ行動をすることによって報酬(強化)を受ける」ことが、学習が成立する重要な要件である。これに対して、他者(モデル)の行動を観察するだけで自分は行動せず、従って直接的な強化を受けない場合でも、学習は成立する。新しいゲームを他人がするのを見ているだけで、やり方をマスターしてしまう場合などがそうである。
このように学習者自らは経験せずに、他者の行動を観察することによって成立する学習を“観察学習”という。また、他者の行動をモデルとして観察者の行動に変化が生じることを“モデリング(modeling)”という。
観察学習においては、学習者は直接強化を受けることはない。しかし他者が強化されるのを観察することによって、間接的に強化の効果を受けると考えられる。このような強化を“代理性強化”という。
バンデュラは、直接経験を必要としない観察学習が、いかに多くの学習課程を安全で容易なものにしているかを強調するとともに、子供の発達過程における観察学習の重要性を指摘している。
また、観察学習を系統的に研究したバンデュラ(
Bandura,A.,1971)は、観察学習の事実を強化だけでは説明できないとし、社会的学習理論を構築した。
社会的学習理論の展開
バンデュラの社会的学習理論は、観察学習の解明を出発点とする。観察学習とは、モデルの行動を観察中、学習者自ら反応したり、直接強化を受けなくても、新しい反応の獲得や、既存の反応レパートリーの変容が行われる現象をいう。それは、学習者の直接経験を伴わないことから、“代理学習(
vicarious learning)ともいわれる。後に彼は、模倣、同一視など類似の諸現象をも統一的に理解するため、モデリングという用語を用いるようになる(1971)。バンデュラは、
1960年代の初め、攻撃行動の観察学習(モデリング)に関する一連の研究を発表して以来、性役割行動、自己統制、道徳判断、同一視などのさまざまな社会的行動の形成や人格発達におけるモデリングの役割を実証してきた。1970年代以降、バンデュラの理論は、認知的要因を重視する方向へと発展していく。同時に、自己効力や相互決定主義などの新しい概念が導入されている(1977)。自己効力とは、ある状況で必要な行動を個人がどれくらい効果的に遂行できるかに関する確信である。相互決定主義は、行動、個人、環境の3者が互いに結びつき、影響し合うという因果関係のモデルである。このように、社会的学習理論は、今日では人間行動を説明するための包括的な理論となっている。
なお、バンデュラは、その後、自らの理論を発展させ、
“社会的認知理論(Social Cognitive Theory)”と称している。
モデリングには、4つの下位過程が働いている(Bandula,1971,1977)。
注意過程
観察によって学ぶためには、モデルの行動の重要な特徴に注目し、正確に知覚しなければならない。注意過程に働く諸要因は、観察者が示範事象の何を注意深く観察し、そこから何を引き出すかを決定する。
保持過程
外的なモデリング手掛かりがなくても、モデルの行動が再生されるためには、観察事象を象徴化して保持しておく必要がある。これには、心像と言語の2つの表象系が働いている。時に、人間の観察学習がすみやかで長時間保持されるのは、言語的符号化の働きによる。
運動再生過程
象徴的表象を行為に変換する過程である。観察者が示範行動の構成要素をもっていれば、それらを統合して、新反応を形成することができる。しかし、最初の試行で示範パターンが正確に再現されることは少ない。観察者は通常、遂行による情報フィードバックにもとづいて自己修正的な調整を加え、徐々に行動を洗練していく。
動機づけ過程
人は学んだことすべてを実行するとは限らないので、習得と遂行は区別される。学習者に直接強化をもたらすような行動は採用され、無報酬や罰を招く行動は採用されることが少ない。同様に、代理強化や自己強化も遂行の有無の決定に影響する。
自己効力
バンデュラ(1977)は、人間行動の決定要因として、先行要因、結果要因、認知的要因の3つをあげているが、“自己効力”は先行要因の一つである。彼は、先行要因の中で、予期の重要性を強調し、それには、結果予期と効力予期があるとする。前者は、ある行動がある結果を導くだろうという個人の予測である。後者は、その結果を生むのに適切な行動がうまくできるという確信であり、これが“自己効力”である。
自己効力の情報源
自己効力を生み出す判断は、次のような4つの主要な情報源にもとづいている。
1. 遂行の達成
自分自身の直接経験に基づくので、最も効果的である。成功すれば次もうまく処理できるという予期が高まり、失敗すると予期は弱まる。
2. 代理体験
先にあげたモデリングの手続きである。自分が恐がっていることを他人が行っても恐ろしい結果が生じないのを見ると、自分も努力すればやれるだろうという予想をもつ。
3. 言語的説得
暗示、勧告などによって、人はうまくできると信じるようになる。しかし、経験を基礎としていないため、現実の困難に直面すると急速に消去してしまう。
4. 情報的喚起
生理的状態が自己効力の判断の手掛かりとなる。緊張や震えなどの生理的反応があると、
心理的に冷静な時よりも、成功を予期する傾向は弱まる。
自己効力の研究は、恐怖症、喫煙、リハビリテーション、学習行動の改善など、臨床や教育場面の行動変容に関して行われ、その効果が実証されている。
相互決定主義
バンデュラは(1977,1985)は、人間行動を理解するための従来の諸理論を再検討し、新しいモデルを提唱している。
1.B=f(P,E) 一方向説
2.B=f(P←→E) 部分的二方向説
3.三者間相互作用説
一方向的相互作用説
今日では、ほとんどの理論家がある種の相互作用モデルを認めており、行動は個人的影響と環境的影響との所産であると考えている。それは上にあるような3つの方法で考えられてきた。このうち、1と2は、行動に関しては、一方向的相互作用論を提唱しているにすぎない。
1. 一方向説
個人と状況を独立の存在としてとらえ、両者が何らかの形で結びついて行動を引き起こすとする。
2. 部分的二方向説
個人と状況とが互いに影響し合うものであることを認めている。しかし、この考え方は、行動への影響については一方向的な作用しか考えていない。つまり、行動そのものは、個人と状況との相互関係には何ら寄与しないと考える。
3.三者間相互作用説
社会的学習理論では、行動、認知その他の個人的要因、環境要因の三者の影響にもとづく相互決定主義のモデルを提唱している。ここでは、3つの要因すべてが互いに結びついて二方向的に決定し合っている。
◆個人と行動の関係
個人のもつ概念、信念、自己認知、意図などは、その人がいかに行動するかに影響する。そして、 そうした行為のもたらす効果が、今度は個人の思考様式や情動反応を部分的に規定することにもな る。
◆
個人と環境の関係
環境要因は、人間が行動しなくても、その人に直接的な影響を与えることができる。つまり思考や感情はモデリング、教示、説得のような他者(環境)の要因によって変容する。また、個人の属性(年齢、社会的地位など)によっても周囲の反応は異なる。たとえば、会社の社長は社員とは違った社会的反応を起こさせるだろう。このような社会的に異なった扱い方は、個人に対する周囲の人の見方を変えることによって、逆に受け手の自己概念や行動をも変えていくことになる。
◆
行動は環境条件を変え、逆にその作り出した条件そのものによって行動変容がなされる。しか し、人は行動している間に、自分の行動がどのような方向に進んでおり、どのような結果を招き やすいかということを考えている。だから、行動と環境との相互作用システムに働いているもう 一つの要因−認知の要因−についても分析していかなければならない。
以上のことから、バンデュラは、人生における偶然の出出会い、個人の自由、権利、責任なども、相互決定主義の立場から理解できるとしている。
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バンデュラのプロフィル
Bandura,Albert,1925年カナダ生まれ。アイオワ州立大学で学位取得。1964年スタンフォード大学教授、行動主義的学習理論を社会化とパーソナリティ発達の問題に適用、独創的で示唆に富む業績を発表している。